小説『中の人』

サステナブル

任務

スマホが鳴り出す。事務局からの通信だ。通話に参加すると既に多くのエージェント達が会話に参加していた。

「K、じゃなかった畑中さん、地表の生活はもう慣れましたか?」

「いやまだ慣れないですね。それにこんな手にもつ通信端末使ってた時代があったなんて歴史書でしか読んだことなかったですよ。」

「わかります。なんだか気分ですよね。」

「エージェント諸君お集まりいただき感謝します。皆さんにはノンマルト地表との命運を握る使命が課せられています。有益な人材を確保してもらうため。ひいては地球市民としてそれに見合うそれに見合った活躍を期待している。いよいよ決戦の時が近づいています。ノンマルトの未来を担うにふさわしい人材を選んでください。それでは幸運を祈ります。」事務局が退出する。

さてどうしたものか。

「さあて、じゃあ本番いきますか!」畑中の一言で現場はピリッと緊張感が走る。大道具、カメラ、音声のスタッフが蜘蛛の子を散らしたように照明の当たった番組セットからカメラの死角へと姿を消していく。カメラの前に残ったのは、番組MCとレギュラーであるMCの相方、ゲストの3人だ。「本番まで3、2、」カウントダウンを終えると同時に番組MCが話し出す。「さあ始まりました!早速参りましょう、今回検証に挑戦してもらう人はこの方です!」中央モニターに若手お笑い芸人コンビコーンの写真が大写しになった。「こいつら知らんな~」すかさずゲストの1人がツッコミを入れる。

「他の皆さん知ってます?」

「知らないなぁ~」ゲストのアーティストがコメントを入れる。他のゲストも首を横に振り、スタジオの誰もが彼らを知らないことを表明する。それぞれのリアクションを見たMCが企画説明に入る。「一年間同じものを食べてもギリ健康でいられる説!」MCは続けて企画の説明を続ける。「ルールは、この二人にくじ引きで決定した食べ物を毎食食べ続けてもらいます。どちらかがギブアップするか、毎週行う健康チェックで異常が現れた時点で検証終了となります。」

MCの相方がコメントを入れる「過酷やなぁー。この番組はほんと容赦ないからね。ゲストの落語家はそこに追随し「スタッフが何日も徹夜したテンションで企画考えてません?」一同が笑い検証VTRが再生された。

ー 検証VTR ー

芸人コンビコーンはマネージャー種咲と打ち合わせをするため所属事務所の会議室に来ていた。種咲唯は今年で二年目になるマネージャーだ。長細い会議室には、会議机二つとパイプ椅子が二脚ずつそれぞれの机に置かれている。待機しているとコーンのツッコミ担当今野航が入ってきた。会議室に入り着席していたマネージャーに、軽く「おざす」と挨拶を交わし荷物の入ったリュックを床に置いた。パイプ椅子に腰掛けスマホを開くと相方の近藤大地が入ってきた。「うぃっす」と挨拶すると手にしたペットボトルのコーラを机に置き、リュックを下ろしつつ椅子に腰掛ける。近藤は服をパタパタさせながら「今日暑くない?まだまだ冬だと思ってたのに、事務所来るまでに汗だくだわ。俺汗かくの本当に嫌なんだよね」

「お前が太り過ぎなんだろ」思わず今野はツッコミを入れる。

「種咲さんクーラーの効き悪くないすか?」

「もう暑がってるのは近藤さんだけですよ。私なんかまだ寒くて長袖だってのに。まあそれはそておき、今日の打ち合わせですけどネタ番組の出演オファーが来てるんです。この前、テレビ局行って、ディレクターさんと名刺交換したの覚えてます?」

「いや覚えてないな」

「あーありましたね。すらっとしたテレビマンには珍しい体型してるなーと思って記憶してますわ。」

「あ!あの名刺が小洒落た人か」

(回想)

コントロール室にノックする「コーンと申します。ご挨拶よろしいでしょうか」種咲が先陣を切って入室する。挨拶の目的複数の人気番組を担当する敏腕ディレクターの畑中徹だ。たくさんの画面に向かって何やら指示を出している。彼の前に立ちあらためて「コーンと申します。ご紹介のお時間いただいてよろしいでしょうか。」

「ああいいよ」

「はじめまして。コーンのボケ担当近藤大地です。」

「同じくコーンのツッコミ担当今野航です。」

「相手から名刺を差し出される。」

種咲と畑中が名刺交換を行う。

「華やかな名刺ですね」

「ああ、これ別注で作ってもらったんですよ」

コーンの二人にも名前を見せる種咲

「二人は地元どこなの?」

「俺は千葉っす、実家がとうもろこし農家やっててとうもろこしが大好物なんです。こいつの家もとうもろこし農家やってて、二人が出会ったのもそれがきっかけなんです。」

「ああそれで、コンビ名コーンなんだ」

「農家同士って交流あるんだね」

「こいつのおとん失踪してて、それでうちが近所だったんで手伝い行ってたんです」

「お父さんは見つからなかったの?」

「はい、警察も街の捜索隊も一週間探したけどまったく足取りが掴めなくて」

「そうか」

「しんみりしちゃってすいません。ぜひ番組での起用お願いします!」

「俺たち何でもやるんで、もしよかったら実家のとうもろこし今度お土産に持ってきますよ」

「いらねえよ笑、はいよろしくー」

(回想終わり)

「今回はその時のディレクターさんの番組で三期先輩の江崎さん一押しの芸人ってことで登場します。」

「近藤が江崎さんと仲良いよな」

「いつも江崎さんは飲み連れて行ってくれてお世話になってるんだよな~。だからこの前実家から大量にとうもろこし届いたからそれ楽屋に持って挨拶しに行ったら、こんな大荷物重すぎて持って移動できるかい!ってツッコまれたわ。でもありがとう。また飲み行こうな。って言ってくれてたわ。」

「それお前どんくらい持って行った?」

「十キロ一箱持ってった」

「そりゃ多すぎやろ」

「だって伊藤さんもとうもろこしごっつい好きって言ってたから、俺と食の好み合いますね!って盛り上がってん。」

種咲がぐいっと会話に入って来た。「近藤さんってそんなにとうもろこし好きなんですか?」

「めちゃ好きやん!俺実家がとうもろこし作ってたんすけど、作ってるおとんがもうとうもろこしは飽きたわ。言うてほぼ毎日俺ばっかとうもろこし食ってたからそれでめっちゃ好きなんよ~今度種咲さんにも持ってこよか?」

「ぜひ!あ、でも十キロはいらないです…」

「まあいいわ。そうやって仕事に繋がるのはありがたいな。」

マネージャーから番組企画書を見せてもらい、出演者、収録日、収録スタジオを聞き、それ以外の細かい仕事のスケジュールを聞いてこの日は解散になった。二人で飯でも食いに行こうかと帰り支度をしながら話していた。事務所の出口に向かって歩いていると、突然正面から目出し帽を被った男が二人こちらに向かって走ってきた。二人とも驚きまったく身動きが取れなくなってしまった。すると目出し帽をしたうちのリーダーらしき男がアイマスクとヘッドホンを差し出してきた。

「目隠しとヘッドホンをつけてお二人をお連れします。」

つづく

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